特集・連載
2019.02. 1

小西さんを知らないのはモグリ!?
平野 Meets the Maker 特別編「小西伝説」

配線工事業界で「小西さん」は有名人です。大手施工会社の技術部に席を置きながら、その肩書はBicsi幹事委員、全国情報配線施工技能士会の理事、メーカーの製品開発アドバイザーなどなど、多岐に渡ります。七つの顔を持つ男・小西さんの名前は情報通信工事に関わった方ならば一度は見聞きしていると思います。

今回はメーカーインタビュー特別編「小西伝説」として、この業界で知らないのはモグリとも言われる、業界の生ける伝説小西さんの謎に迫っていきます。

―― 自己紹介をお願いします。

「施工会社K※1の小西治彦と申します。この他にも、Bicsi日本支部幹事委員や全国情報配線施工技能士会理事などもやっております。『小西伝説』って(笑)。なんだか恥ずかしいなぁ。僕はそんな大げさな人物ではないですよ! 配線工事のいろんな所に顔出してるだけですよ」

※1 社名を出すとインタビュー内容に制約がかかるとのことなので伏せさせていただきます

「自分にないのは『お金』と『権力』と『ギャル』(笑)!」と小西さん

―― 伝説といえば...小西さんの名前がついた製品もあるとか?

「冨士電線のファイバエココード※2ですね。 型番の『KK』は僕の名前から来てるんですよ。コードを現場で剥くんだけど『従来の横溝だと剥き難いから縦溝にしたら? 』っていったら、実際の製品になっちゃたんですよ。

仮設用のUTPリール※3も僕の要望が形になった製品です。仮設で監視カメラを設置したい時があって、電工ドラムのUTP版があったらいいなと思ったのが開発のきっかけです。探したけどなくて、メーカーと組んで作ったのが『スーパーリール』です。先端がジャックジャックで、LAN規格(TIA-568)に準拠していることがこだわりです。他製品でジャックとプラグは有るのですが、規格品ではありませんでした。ケーブルは2重シースの防水で屋外の仕様もOKです。この製品は反響があって、今では小型のスーパーリールMini※4も出ています」

左:細径平型ファイバエココード(EM-FSDFKK)、右:スーパーリール(4TPC5-RV-B90B-PR)

※2 冨士電線製 細径平型ファイバエココード(EM-FSDFKK)
※3 冨士電線製 スーパーリール(4TPC5-RV-B90B-PR)
※4 冨士電線製 スーパーリールMini(4TPC5-RV-B45B-PR)

―― 小西さんに新製品の話をすると「この間触った。持ってるよ」と御本人から聞いて驚くことがあります。僕ら専門商社より情報が早いし詳しいことに驚きます。

「あれは、メーカーが新製品の意見を聞くために製品を持って来るからです。材料系だと冨士電線、通信興業、日本製線、パンドウイット、コムスコープ...などなど。光ファイバー御三家のフジクラ、古河、住友も見せにきてくれます。私は現場にも精通してるし、製品に詳しいからね。製品は過酷な工事現場で使うものだから、現場でのユーザービリティを徹底的に検証しています。僕の意見を取り入れた融着接続機や光ファイバカッターなど、いろいろありますよ。フルークのテスターとか最初のバージョン※5から触ってるから。もしかするとメーカーより詳しいかもしれないですね。 名前は出せないけど...ある外資系メーカーの執行役員はNTTの重役と僕と会ってアメリカに帰ってるみたい(笑)」

※5 フルークネットワーク社製テスターの初期型「DSP100」から「DSP2000」「DSP4000シリーズ」「DTX-1800」「DSX-5000」「DSX-8000」まで

―― 小西さんといえば、小柄な体にいつも背負ってる大きい荷物が印象的です。初めて見た時もすごい荷物だなあと思いました。

「大したもの入っていないよ(笑)。部材と工具がほとんどですね。無駄かもしれないけど、出張先の工事や講義で重宝するんですよ。そうそう、一日分のパンツと下着もあるよ(笑)現場はサバイバル! 備えあれば憂い無しよ(笑)」

整理整頓された配線部材やテスターが収納された通称「小西バッグ」。鍵付きでセキュリティも万全(鍵はチャックが荷物で下がるから取り付けたそうです)

一見雑然と見えるがアイテムはジャンルごとにパッキングされ、すぐに取り出せるようになっている。現場必需品のオプクリーン、融着スリーブ、ハサミ、ストリッパー、可視光源などは常備しているのだとか

―― 小西さんが配線工事業界でこれだけ有名になっていくきっかけについて掘り下げていきたいと思います。小西さんの簡単なキャリアを教えてください。

「配線に興味をもった子供の頃にさかのぼります。子供の頃からラジオを作ったり、アマチュア無線※6をいじることが好きでした。配線をエッチングしたり、部品を日本橋(大阪)や秋葉原から通販するような子供でした。その頃から、電子工作を活かせる電気工事の仕事をしたいなあと漠然と思ってました。

ほんとは香川の詫間高専※7に行きたかったんだけど落ちて、手に職をつけられると思って勝山(岡山県)の職業訓練校で配線工事を専攻しました。その時の先生の勧めで今の施工会社の入社試験を受けたら受かって、この道に入ったわけです。当初は外線工事部隊に行きたかったんだけど、体が小さいせいもあって内線工事部隊に回されました。その3年後に情報通信部隊ができて、立ち上げから関わりました。それが1980年代後半くらいかな。

志望ではなかった配線工事だったんだけど、細かい作業は趣味の電子工作に通じる部分もあって、自分の肌にあっていた。現場の職人さんとも話が会うし、現場にも馴染んでいったわけですね。

1980年代後半はインターネットが出始めた頃で、情報通信先進国のアメリカから様々なノウハウを仕入れてきて、工事に応用していきましたね。霞が関の官庁街や新宿高層ビル群などの大きな案件をいっぱいやっていたのもこの頃です。大きな工事をやるうちに、メーカーや配線の職人と仲良くなって、名前を覚えてもらったのもこの時期です」

※6 日本ではその手軽さと更新の利便性も相まって70~90年代にブームになる。1995年には136万4000局を達成し世界一の無線大国となる。
※7 国立詫間電波工業高等専門学校。2009年に高松工業高等専門学校と統合し香川高等専門学校となる。

―― 当時のインターネット黎明期の配線業界はどんな状況だったんですか?

「当時のインターネットは家庭に普及していなかったけど、大手企業や工場には普及してたんですよ。その当時の規格だと10BASE-T※8とか。工場のネットワーク工事は多く手がけましたよ。製品はアメリカ製で日本語訳の製品説明書がやっとあるくらいで、工事の作業マニュアルなどない状況でした。だから、自分たちでオリジナルの作業マニュアルを作りました。すべてが手探りで大変でしたよ」

※8 ツイストペアケーブルを使ったEthernetの接続方式のこと。「テンベース・ティー」と読む。10BASE-Tは、ツイストペアケーブルを使うことで10BASE2や10BASE5に比べて作業が容易で、セグメント長も100mあることから多く普及した

当時手探りの状況で作り上げられた作業マニュアル(1982年作成)。日本のインターネット黎明期を今に伝える第一級資料

当時の部材は小西さん曰く「ちゃちな玩具」。当時の作業マニュアルは目からウロコの珍しい部材の宝庫

―― 小西さんといえば、所属の企業以外でも、配線に関わる様々な活動にかかわられておられますよね。見せていただいた免許も膨大な数です。

「はい。資格なら、国家資格から民間までいっぱい持っていますよ。勉強は嫌いだけど、質問されたことに答えられないのが悔しくて様々な情報通信団体の試験やセミナーを受けるようになっていきました。試験やセミナーに顔を出す中で徐々に顔を覚えられていって、今のBicsi※9幹事委員や全国情報配線施工技能士会※10の理事をすることになったんです。役員と言っても、慈善団体だからお金がもらえたりするわけではないんですよ。

平野さんでもやってるBicsiのセミナーあるでしょう、あれも立ち上げたのは僕なんです。年会費を取っておいて、年1回のカンファレンスだけじゃ寂しいでしょう? 『だったら、会員のためになるセミナーをやりましょう』って提案して、年20回程度のセミナーをやることになったんです、僕も年2回程度登壇しています」

※9 米国において1974年に設立された情報配線システムの設計・施工に関する非営利の教育機関。昨今では世界約100ヶ国のICT業界において、必須となる高度の知識を持った技術者を養成し、業界の発展に寄与することを目的に活発な活動をしている。
※10 情報通信施工業者の情報配線の技能向上とスペシャリスト育成を目的として設立された団体。年数回の技能検定などを行っている。

資格のほんの一部。会社持ちで取った資格もあれば、プライベートで取った資格も多い。取得後の更新も欠かさない。今では資格がなくなって資格保持者が小西さんのみの資格もあるとか

―― メーカーの製品開発にも精力的に参加されたりして、メーカーから引き抜きの話などなかったのですか?

「あったあった(笑)。当時の年俸の2倍も提示されたこともあるよ。
でもね、メーカー行っちゃうと業界の最前線にはいれなくなるんですよ。やっぱり一番大事なのは(工事)現場! 現場を知らないと製品のことも分からなくなると思いますよ。現場にも行けて、メーカーとも関われる今のポジションだからいろいろ言えるわけです」

―― 今後の目標などありますか?

「あるある! このインタビューで、もっと情報通信業界のことに関して語らしてよ(笑)。
1回じゃさ、終わらないよ。なかなか注目されない業界だけど、私は黎明期からいるからね。伝えたいことや面白いエピソードはいっぱい知ってるよ。そういうのをじゃんじゃん取材して欲しいね。こういう企画、ホント面白いよね。『小西伝説2』も期待しているね(笑)」

平野営業から一言

平野営業

小西さんと話していて思ったのは、免許や資格取得の大切さでした。小西さん曰く、免許があるだけで大きな工事に関わることが可能になるので工事施工者さまには免許をとって歴史に残るような案件をどんどんやって欲しいそうです。

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